意味性錯語は改善する?失語症に対するPCA訓練のエビデンスを解説

近年,失語症者の喚語障害へのアプローチとしてPCA訓練が広まりつつあります。

PCA訓練(音韻構成要素分析)は音韻へのアプローチを軸とした訓練ですが、「意味性錯語にも効果があるのか」という点については、臨床現場でも判断に迷う場面が少なくありません。

実際には、実行機能や音韻処理能力、訓練頻度など複数の要因が関与し、単純に喚語障害や意味性錯語に対して「効く・効かない」とは言い切れないのが現状です。

本記事では

PCA訓練によって喚語障害が「改善しやすい・しにくい」の根拠を,PCA訓練に関する研究知見や神経心理学的背景を整理しながら解説します。

PCA訓練の具体的な進め方や8STEPの実施手順については『【失語症】喚語障害に対するPCA訓練の実施方法|具体的な手順と臨床ポイント』で詳しく解説しています。

目次

PCA訓練の効果を左右する神経心理学的要因とエビデンス

PCA訓練の効果はすべての症例に一律ではなく、背景にある神経心理学的な特性によって左右されることが近年の研究で示唆されています。

単なる言語機能の評価に留まらず、実行機能や認知制御の側面から症例を捉えることが、リハビリテーションの予後予測や適切なアプローチの選択に繋がります

実行機能・抑制能力(フランカー課題)と訓練効果の相関

訓練効果の要因(前頭葉機能)
(資料内P13)

PCA訓練の治療成績に深く関与するのが、実行機能の一部である「抑制能力」です。

ミシェルら(2022)の研究では、ノイズ刺激の中から正解を選択する力を測る「フランカー課題」を用い、認知制御能力と訓練効果の関連を調査。

その結果、抑制能力が高い症例ほど、PCA訓練による喚語成績の向上が顕著であるという傾向が示されました。

目標語を想起する際、脳内では競合する類似の音韻表象が活性化されます。

抑制能力が高い症例は、こうした誤反応を適切に排除し、正しい音韻表象のみを選択・保持することが可能。

PCA訓練が「音韻の照合と選択」という深い認知処理を求める手法である以上、この実行機能の充実は訓練効果を最大化させるための重要な基盤となります。

ポイント!

干渉課題に対して、「反応が速い」 「エラーが少ない」症例はPCAの訓練効果が高い可能性を示唆

Michèle (2022):
認知制御能力と失語症呼称訓練の関連についての研究

音読・復唱能力および音韻同定成績が維持・汎化に与える影響

訓練効果の要因(音読・復唱能力)
(資料内P12)

PCA訓練を実施する前提条件として、一定水準の音読・復唱能力の有無が、維持効果や非訓練語への汎化を左右する重要な指標となります。

キャロル(2008)らの報告によれば、音読能力が良好な症例は訓練後の成績が維持されやすい傾向にあります。

一方、音読能力が重度に低下している症例や、音の同定そのものが困難なケースでは、訓練効果が限定的になるリスクも存在します。。

ただし、訓練過程で音韻同定の成績が向上し始めた症例では、最終的に改善が認められる場合もあります。

初期評価時の音読・復唱成績に加え、訓練場面における「音韻同定の正確性と速度」の変化を追うことが、介入継続の判断材料となります。

ポイント!
  • 音読能力、復唱能力は前提として必要
  • PCA訓練にて、語頭音の同定の成績が向上=訓練効果の可能性を示唆
  • PCAの他の成績が向上=維持効果の可能性を示唆

Carol(2008)
音読・復唱能力と呼称訓練成績の関連に関する報告

訓練頻度と強度が脳の処理効率に及ぼす可能性

訓練効果の要因(集中的訓練)
(資料内P14)

リハビリテーションの「量」と「質」の議論において、PCA訓練における集中的な介入の有用性も見逃せません。

カリン(2018)は、1回1時間の標準的訓練と、1回3時間の集中的な訓練を比較。

どちらも改善は認められましたが、集中的な訓練群では、訓練後に前頭葉活動の変化が認められたという結果が報告されています。

これは、高強度の負荷によって言語処理の効率化が進み、少ないリソースで正確な出力が可能になった「処理効率の向上」を示唆しています。

維持効果や汎化を狙うのであれば、症例の疲労度を考慮しつつも、一回あたりの訓練時間を確保し、集中的なアプローチを検討する価値は十分にあります。

Karine (2018):
集中的な呼称訓練が脳の可塑性および処理効率に与える影響

まとめ:失語症に対するPCA訓練のエビデンス

本記事では、喚語障害や意味性錯語に対するPCA訓練の効果は一律ではなく、神経心理学的要因によって左右される可能性を整理しました。

特に、抑制能力(フランカー課題)、音読・復唱能力や音韻同定成績、そして訓練頻度・強度といった要素が、改善や維持・汎化に関与する重要な指標となります。

つまり、意味性錯語がある患者にPCA訓練が適応かどうかという単純な話ではなく,症例の認知特性を踏まえて設計することで、その効果が最大化される可能性があります。

実際の臨床では、これらの要因がどのように介入結果へ影響するのでしょうか。

続けて『【症例で学ぶ】失語症の音韻性錯語に対するPCA訓練|介入手順と改善経過』では、具体的な症例をもとに評価から改善までのプロセスを解説しています。

この記事を書いた人

STワールドは、言語聴覚士(ST)による、言語聴覚士のための学びと交流の場として誕生しました。現場で活躍するST同士が知識や経験を共有し合い、より質の高い支援を提供できるようサポートしています。

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