【症例で学ぶ】失語症の音韻性錯語に対するPCA訓練|介入手順と改善経過

失語症臨床では、喚語はできるが,音韻が崩れてしまう「音韻性錯語」への対応に悩む場面が少なくありません。

とくに伝導失語症例では、語の中盤から後半にかけて音が省略されるなど、出力段階の問題が目立つことがあり、単なる反復練習だけでは十分な改善につながらないケースもみられます。

こうした症例に対しては、音韻に対して多方面からアプローチする訓練設計が求められます。

本記事では

PCA訓練(音韻構成要素分析)を用いた実際の介入例をもとに、評価から訓練設計、そして改善経過までの臨床プロセスを整理します。

音韻省略という具体的なエラーパターンに焦点を当てながら、訓練語・非訓練語の変化や質的な改善をどのように捉えるのかを、症例ベースで解説していきます。

理論やエビデンスだけでは見えにくい「臨床での実際」を通して、PCA訓練の活用方法を具体的に理解していきましょう。

まだ読んでない方は
こちらの記事から!

PCA訓練の具体的な手順

エビデンスや理論背景

目次

【実践報告】伝導失語症における「音の省略」への介入例

本章では、音韻性錯語、特に「音の省略」が顕著であった伝導失語症例に対するPCA訓練の実践報告をまとめます。

評価から介入、そしてメカニズムに基づく考察まで、臨床のプロセスを詳述します。

症例を見てみましょう!

症例分析:音韻省略のエラーパターンと評価の視点

基本情報80代 男性
主訴言葉につまる
診断名心原性脳塞栓症
言語型伝導失語

本例は「1〜2文字目でつまってしまい、話しにくくなる」という自覚的な訴えがありました。

神経心理学的所見では、TLPA単語理解は199/200と良好。

一方、表出面では数唱4桁とSTM(短期記憶)は年齢平均でした。

初回呼称評価(SALA PR20)の結果、正答率は69/96。
音韻性錯語が散見されました。

エラーの内訳を確認すると、音韻性錯語16個のうち、置換や付加は少なく「省略」が13個と大半を占めていました。

特に「ろくろ首」を「ろくる」、「金槌」を「かづ」と呼称するなど、語の中盤から後半にかけての省略が頻発するパターンが特徴的でした。

訓練語および非訓練語における改善データと質的変化の考察


訓練語・非訓練語の成績変化
(資料内P30)

画像はクリックで拡大!

SALA検査以外の呼称課題にて,喚語障害を認めた20語を集めました。
その20語を10語ずつ2群に分け,10語をPCAをおこなう訓練語群,残り10語を非訓練語群としました。

介入の結果、訓練語の呼称正答数は5から10へと大幅に向上しました。

特筆すべきは、直接介入していない非訓練語の正答数も4から7へと向上し、
さらにSALA呼称検査の音韻エラー数も減少した点です。

実際のSALA呼称成績では、音韻性錯語としての「省略」が13個から4個へと激減しました。


訓練前後のSALA呼称の成績変化
(資料内P31

これは、特定の単語に対する練習効果に留まらず、PCA訓練を通じて音韻処理全体に汎化が生じた可能性を示唆する結果といえます。

語彙層と音韻層の相互活性化を促すこのアプローチは、音韻性錯語の改善において極めて有効な戦略であることを示しています 。

臨床のヒント:喚語障害と音韻性錯語に対する戦略的使い分け

PCA訓練を実際の臨床に落とし込む際、対象症例の主症状が「喚語困難(言葉が出ない)」なのか「音韻性錯語(音が崩れる)」なのかにより、強調すべき分析項目が異なります 。

画一的な実施ではなく、症状のメカニズムに応じた戦略的な使い分けが、訓練効率を最大化させる鍵です。

喚語を促進する「韻を踏む語(ライム)」の活用方略

なぜPCA訓練に効果があるのか
(資料内P40)

言葉の検索そのものに難渋する「喚語困難」が主体の症例には、「韻を踏む語(ライム)」の抽出と提示が有効な可能性があります。。

目標語と末尾の音が共通する語をヒントにすることで、ターゲット語へのアクセスが促進され、語の探索が行いやすくなると考えられます。

ただし、臨床現場において「韻を踏む」の定義には解釈の幅があります

5つの音韻的特徴
(資料内P4)
  1. 語尾1音が合う語:りんご→「たま
  2. 語尾2音が合う語:りんご→「たんご
  3. 1,2音入れ替えた語:りんご→「リン
  4. ハミングでの韻律呈示:りんご→「♪♪♪」

症例の反応を見ながら、どの程度の類似性が喚語を促しやすいかを評価し、ヒントの出し方を調整していく視点が重要です。

音韻表象の安定化を目的とした語頭・語尾音およびモーラ数の確認

一方で、音は出るものの置換や省略が目立つ「音韻性錯語」が主体の症例には、語頭音・語尾音・モーラ数の確認を重点的に行います 。

これは、曖昧になっていると考えられる音韻表象を、構造的側面から再確認・整理する作業と位置づけられます。

特に伝導失語症例などで見られる「音の省略」に対しては、モーラ数を明示的に意識化させることが有効です 。

自分が発しようとしている語が何文字で構成されているかという「枠組み」を確定させることで、語彙層と音韻層の結合が強まり、出力の正確性や安定性の向上が期待されます。

臨床準備を効率化する外部検索ツール

PCA訓練の質を左右するのは、適切な「韻を踏む語」や「類似した語」を提示できるか否か

しかし、臨床の合間にこれらを瞬時に用意することは、STIにとって負担となる場合があります。

そこで、以下のようなWebツールの活用を推奨します。

語尾検索エンジン

指定した語尾とモーラ数から該当語をリストアップ

音痴サーチ(母音検索)

母音構成の一致から、精度の高い「韻を踏む語」を検索

こうしたリソースを活用することで準備の効率化が期待され、症例の反応分析や内観の聴取に時間を割きやすくなる可能性があります。

まとめ:【症例で学ぶ】失語症の音韻性錯語に対するPCA訓練

本記事では、伝導失語症例における「音の省略」に対し、PCA訓練を用いた介入過程と改善経過を整理しました。

評価では音韻性錯語の中でも省略が中心であることが明確となり、音韻構造へのアプローチを軸に訓練を実施。

その結果、訓練語だけでなく非訓練語にも改善がみられ、音韻処理全体への汎化の可能性が示唆されました。

また、喚語困難主体か音韻性錯語主体かによって、ライム提示や語頭音・語尾音・モーラ数の確認など、強調すべき分析項目を調整する重要性も示されました。

PCA訓練は画一的に行うものではなく、症例のエラーパターンに応じて戦略的に運用することで、より高い臨床的効果が期待されます。

専門職としての臨床力を高めるSTワールドの展望

今回のPCA訓練の深掘りを通じて見えてきたのは、評価に基づいた緻密な理論構成と、それに応じる柔軟な臨床の知恵です。

ST(言語聴覚士)という専門職が、科学的エビデンスに基づく判断と症例への人間的な共感を両立させること。

それこそが、私たちが目指すべき姿です。

「STワールド」では、今後も最新の知見を臨床の武器に変えるための研鑽を続けてまいります。

一つひとつの症例に向き合い、共に悩み、共に喜ぶ。

その地道な歩みの先に、失語症を呈した方々の豊かなコミュニケーションの再構築があると信じています。

ST.ワールドでは、臨床に直結するセミナーを定期的に開催しています

ST.ワールドでは、今回ご紹介した内容に限らず、言語聴覚士(ST)の臨床力向上を目的としたセミナーを定期的に開催しています。

評価・訓練・理論の理解に偏ることなく、「明日の臨床でどう活かすか」を重視したテーマ設定を行っており、新人から経験年数のあるSTまで、幅広い層にご参加いただいています。

最新の開催情報や内容については、ST.ワールドのセミナーページをご確認ください。

この記事を書いた人

STワールドは、言語聴覚士(ST)による、言語聴覚士のための学びと交流の場として誕生しました。現場で活躍するST同士が知識や経験を共有し合い、より質の高い支援を提供できるようサポートしています。

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