【失語症】喚語障害に対するPCA訓練の実施方法|具体的な手順と臨床ポイント

失語症臨床では、

  • 言いたい言葉が出てこない(喚語困難)
  • 意図しない音に置き換わる(音韻性錯語)

といった症状が、コミュニケーションに大きな影響を与えることがあります。

これらの症状に対しては、単なる反復練習や対症療法に終始するのではなく、神経心理学的なメカニズムを踏まえて訓練手法を選択・構築することが重要です。

とくに、喚語プロセスのどの段階でエラーが生じているのかを評価し、それに基づいて介入を設計することは、リハビリテーション効果を高めるうえで欠かせません。

本記事では

STワールドの勉強会知見をもとに、SFA訓練から発展した「PCA訓練(音韻構成要素分析)」の理論と実践を整理します。

喚語困難や音韻性錯語に対する介入として、臨床でどのように活用できるかを、具体的な視点で解説します。

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目次

PCA訓練(音韻構成要素分析)の基礎理論:SFA訓練からの発展

PCA訓練とは
(資料内P19)
PCA訓練とは

PCA訓練(Phonological Components Analysis)は、意味素性分析訓練(SFA)を基盤として発展した呼称訓練法です。

SFAが目標語に関連する意味的属性を抽出・活性化することで呼称を促すのに対し、PCA訓練では、目標語の音韻的特徴に着目し、それらを分析・操作することによって呼称を支援します。

具体的には、

  • 語頭音
  • 語尾音
  • モーラ数
  • 音を入れ替えた別の語
  • 語頭音が同じ別の語

など、複数の音韻的構成要素を段階的に扱いながら、目標語へのアクセスを促進します。

PCA訓練は海外で開発され、日本語話者への適用にあたっては言語特性を踏まえた調整が行われていますが,
まだ十分とは言い切れません。

また、SFA訓練との比較研究も行われており、症例の障害特性に応じて、意味的側面に焦点を当てるか、音韻的側面に焦点を当てるかを検討する枠組みの中で位置づけられています。

このように、PCA訓練はSFA訓練の理論的背景を共有しつつ、音韻処理に特化した介入として構築された訓練法です。

Sophia(2013)
失語症者を対象に、SFA訓練とPCA訓練の効果を比較した研究。

なぜ「意味」ではなく「音韻」へのアプローチが必要なのか

失語症症例の中には、物の用途や属性は理解していても、その「音」が出てこない、あるいは誤った音を選択してしまうケースが頻在します。

このような状態では、意味的特徴を掘り下げるアプローチのみでは、音韻レベルの処理不全に十分に対応できない場合があります。

そこで有効とされているのが、音韻構成要素を直接操作するPCA訓練です。

音韻的特徴を意識的に扱うことで、目標語の想起や音韻処理を支援し、正確な発話につながる可能性が示唆されています。

PCA訓練の実際

5つの音韻的特徴
(資料内P4)

画像はクリックして拡大!

PCA訓練の核心は、絵カードなどの目標語に対し、以下の5つの側面から分析を行うプロセスにあります。

  1. 音を入れ替えた別の語
    目標語の音韻を操作し、別の語を想起
  2. 語頭音
    単語の最初の1音を抽出
  3. 語頭音が同じ別の語
    同じ音で始まる別の語を検索
  4. 語尾音
    単語の最後の音を抽出
  5. モーラ数
    単語の拍数(音の長さ)の同定

これらの要素を順次特定する作業により,音韻的エラーの少ない喚語処理を目指していきます。

【8STEP】PCA訓練の手順

PCA訓練は、目標語に対して音韻的特徴を段階的に分析させることで、喚語過程を支援する訓練です。実施手順は以下の流れで整理できます。

STEP
呼称を求める
STEP
韻を踏む語の想起
STEP
語頭音の同定
STEP
語頭音が同じ語の想起
STEP
語尾音の同定
STEP
モーラ数の同定
STEP
呼称を求める
STEP
①エラーの場合は復唱
  • ②~⑥は、誤り時は1/3選択を行う

このように、PCA訓練は「音韻の分析 → 再呼称」という構造を中心に進める訓練法であり、音韻処理と語彙想起の結びつきを強化することを目的とします。

エラー発生時の「3分の1選択(三択)」が持つ臨床的意義

具体的実施方法(原法をもとに修正)

PCA訓練では、症例が自力での回答が困難な場合や誤反応が生じた際に、補助的手段として選択肢提示が用いられることがあります。

例えば、音韻想起が困難な症例において、誤反応が予測される場面で複数の選択肢を提示すると、症例は自発的な想起ではなく、提示情報を手がかりに正答を再認することが可能となります

このような選択肢提示は、誤反応を経験させずに課題を継続させる,患者の訓練意欲を阻害しないなどの目的で用いられます。

その結果、症例は提示された語と自身の内部表象を照合する過程を経て、音韻処理を伴う課題遂行を行うことになります。

ただし、PCA訓練において選択肢提示や三択形式が標準的手続きとして必ず用いられるわけではなく、あくまで症例の反応特性や課題遂行状況に応じて導入される補助的手法と位置づけられます。

まとめ:喚語障害に対するPCA訓練の実施方法

本記事では、SFA訓練から発展したPCA訓練の理論と具体的な実施手順について整理しました。

PCA訓練は、語頭音や語尾音、モーラ数などの音韻的特徴を段階的に分析しながら再呼称を促すことで、喚語過程を支援するアプローチです。

単なる反復ではなく、音韻構造への意識化を通して語彙想起を強化する点が大きな特徴といえます。

また、8STEPの流れを基本としつつも、症例の反応特性に応じて三択提示などの補助的手法を柔軟に用いることが、臨床での実施ポイントとなります。

重要なのは、喚語プロセスのどの段階でエラーが生じているかを評価し、それに合わせて音韻的分析項目を調整することです。「音韻性錯語がある」「喚語困難がある」からといって,PCA訓練が必ず適応になるとは考えないようにしましょう。

PCA訓練の効果や適応について、さらに詳しく知りたい方は『意味性錯語は改善する?失語症に対するPCA訓練のエビデンスを解説』もあわせてご覧ください。

この記事を書いた人

STワールドは、言語聴覚士(ST)による、言語聴覚士のための学びと交流の場として誕生しました。現場で活躍するST同士が知識や経験を共有し合い、より質の高い支援を提供できるようサポートしています。

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